ナビゲーション人工膝関節手術とは
ナビゲーションシステムは乗用車で広く用いられるようになり、皆様にも馴染みがあると思います。カーナビは便利なもので、特に馴染みのないところに初めて行く時には道案内をしてくれるので安心できますが、曲がるときに間に合わなかったり、馴染みの場所ではナビの知らない抜け道があったりします。しかし、カーナビにはGPSという絶対的な基準になるものがあるので大きな間違いが殆ど無いので最終的には目的地に着くことができるようになっています。
人工関節手術にも車と同様にナビゲーションがあります。人工関節手術ではGPSの代わりに形が変わらない骨を基準にします。骨の位置や形を正確に測るために、CTやレントゲンを使いますが、手術の際に足の向きが少し変われば誤差が生じるため、術前に調べた位置が必ずしも1ミリ以下・1度以下の単位まで術中と同じとは言えません。私共は1ミリ、1度を大切にしたいのです。
人工関節のナビゲーションではいくつもの参考となるポイントを術者がコンピューターに教えて、その情報をもとにコンピューターが術者に骨を切る位置を教えます。膝や足関節は蝶つがいのような形なので回転する軸がありますし、股関節は球形なので回転の中心点があり、それらもナビゲーションの参考になります。また、骨の頂点や中心点も参考になります。しかし、最初に術者が与える情報に誤差があると、ナビゲーションは不正確なものとなります。では、ナビゲーションはあてにならないのでしょうか。そんなことはありません。いくら専門の医師でも1ミリ、1度以下を眼で見て判別できませんが、コンピューターはそれを判断できます。2ミリ、 3ミリは経験を積んだ専門の医師ならわかりますが、一般の整形外科医ではおかしいと思わないことがあります。しかし、コンピューターは、このような僅かな誤差も判断し、手術の正確性を確認する上で有用なアイテムとなります。また、手術の安全性向上のためのセキュリティーシステムであり、大切な家を守ってくれる警備会社のようなものです。
実際に現在ナビゲーションシステムを使用している施設には、必ず専門の医師がいます。その理由として、ナビゲーションは現在も発展途上の技術であり、多額の費用がかかることが挙げられます。また、ナビゲーションはあくまで手術の正確性を確認するセキュリティーシステムですので、医師が正確に手術を行える確かな技術を持っていることが前提となり、多くの人工関節手術を行う専門の医師しか使えないのが現状です。専門の医師がその正確性、有用性、安全性を確認して始めて一般の医師も使えるようになるのです。新しい薬と同じです。そう遠くない将来には一般的なものになるかもしれません。
ナビゲーションは手術の正確性向上のためには有用ですが、皮膚の傷が大きくなる、時間が長くなるという短所があります。私共の施設では、患者さんにナビゲーションの長所・短所をよく説明して、同意を得た上で使用しています。ただし、ナビゲーションを使っていないからといって専門の医師でないわけではありませんし、ナビを使った手術よりも正確な手術ができる専門の医師はいくらでもいます。その長所・短所を考えた上で使わない専門の医師も多くいます。ナビゲーションシステムは現在の所あくまでも保険のようなものです。
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新しいレントゲン撮影法
大腿骨後方の変化と大腿骨の回旋(捻れ)を見るための新しいレントゲン撮影法 kneeling view を開発し、これまでは時間と費用がかかるCTを用いないと計測できなかった大腿骨の回旋をたった1枚のレントゲンでわかるようにしました。このレントゲンを術前に撮影することにより、人工関節の大腿骨インプラントをどのような角度で設置すべきかを手術の前から予測できるようになりました。この術前予測は別の項で説明した膝蓋骨脱臼を予防する上で大変、有用です。これも国内外の学会で発表しました。
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オリジナルのバランス調整器具の研究
術後に安定した膝にするためには内外側の靱帯などのバランスを上手に調整することが重要です。なぜなら、車のタイヤと同じで、内と外のバランスが悪いと人工関節が片減りし、早く潰れてしまうからです。しかし、これまでは簡単な道具を用いて手術する医師の経験と勘によって靭帯の調整が行われてきました。そこで私共は長持ちする人工膝関節を目標に、より正確な靭帯バランスを得るために精密な計測機器を用いた術中靭帯バランス計測システムを開発しました。試験を繰り返し、現在、実際に使用してより正確な靭帯バランスの調整ができるようになりました。その結果についても学会等で発表してきました。
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MIS人工膝関節手術
MISとは「Minimally Invasive Surgery」の略で、極力小さな皮膚の傷で、筋肉や靭帯への負担も必要最小限にして行う手術のことです。一般的な人工膝関節の手術では傷(外から見える皮膚の傷)がだいたい15から20cmほどの長いものとなることが多く、女性の患者さんには気になるところです。しかしながら、目で見える傷の大きさが全てではなく、下にある筋肉や靱帯などに対するダメージを最小限にすることが術後の回復には重要です。無理に小さな傷で手術を行おうとすると皮膚や筋肉を強く引っ張ってしまい、かえって膝へのダメージを大きくしてしまうことがあります。傷の大きさは、体格、肥満度、柔軟性や骨の質などの要素も関わってきます。
私共が行っているMIS 法では患者さん個々に合わせて必要最小限の皮膚の傷で手術を行うようにしています。傷はだいたい10cm強で、手術の際に筋肉、関節包(関節のふくろ)の切る範囲を最小限にとどめるように心がけています。これにより、手術後の歩行なども早く開始できるようになり、早期の社会復帰が可能となりました。過去には、手術してから退院するまでに早い人でも1ヶ月、長い人だと3ヶ月もの入院期間が必要でした。そのため、仕事をされている患者さんやご家族の面倒を見てあげないといけない患者さんは、少なからず手術を躊躇される場合がありました。
しかし、MIS法を用いることができれば、70、80代の患者さんでも1週間もあれば、杖をついて十分に歩けます。階段昇降も2、3週間で可能です。退院についてはそれぞれの方で生活環境が違いますので一概に言えませんが、遅くとも1カ月あれば退院できる状態になります。
ただしこのような手術がどこでも誰でも行えるというわけではありません。狭い視野で手術操作を行うために手術の方法がかなり特殊となり、経験を積んだ専門の医師でないと出来ないのが現状です。そして、どのような患者さんにも行えるというわけではありません。必ず専門の医師の診察を受け、自分の膝関節の状態でMIS法が可能かどうかを確認することをお勧めします。
MIS法の手術操作では太ももの筋肉(大腿四頭筋)とお皿の骨(膝蓋骨)の位置関係が大変重要な要素となります。私共は術前にCTを用いてこれを調べてMIS法が可能かどうかを判断しています。また、MIS法の普及のために全国の整形外科医の手術見学を受け入れています。
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CTを用いた研究
MISによる手術を行う際に、太ももの筋肉(大腿四頭筋)がお皿の骨(膝蓋骨)のどの部分にどの角度でついているかによって手術のし易さが大きく異なってきます。そこで、術前に特別なCTを用いてこれらを計測し、どの程度の大きさの傷、筋肉へのダメージで手術可能かを予測できるようにしました。その結果、大腿四頭筋と膝蓋骨の位置関係は個人によっても人種によっても異なることを明らかにし、学会等で発表してきました。
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日本人のサイズについて
私共のグループでは500以上の膝のレントゲン像の計測から大きな膝ほど前後に扁平になること、欧米と日本とでは平均的なサイズが大きく違うことなどを学会で報告し、その結果は、現在の人工関節のサイズバリエーションの参考になっています。
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肺塞栓症の研究
私共のグループは、肺塞栓症が話題になる前から、経食道心臓超音波検査、肺のシンチグラム、カテーテルからの静脈血採取などの検査を行って病態の解明と予防に取り組んできました。現在は、患者さんがあまり苦痛を感じない下肢静脈超音波検査を術前と術後に行い重篤な肺塞栓症の元凶となる下肢静脈血栓の早期発見、早期治療に取り組んでいます。
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有限要素解析を用いた研究
金属の下の骨に均等に力が加わるような人工関節のデザインを調べるために人工関節と骨の部分を小さな領域に分けてその部分に加わる力をコンピューターで計算する有限要素法という手法を使って検討し、報告してきました。また、立て膝という動作についても私共は極力しないように指導してきましたが、これが安全にできるように私共は有限要素法という工学的手法によるコンピューターシミュレーションで研究しています。今後、正座についても研究を行う予定です。
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その他
他にも不幸にして人工関節の入れ換えの手術(再置換術)が必要になってしまった患者さんの血液をいただいてその血液中の金属イオン濃度を測定したことがあります。それにより、全身の臓器(特に脳)に対する影響がないかどうかを調べたところ、脳には大きな影響がないことが明らかとなりました。その結果は、学会等で報告し、広く周知してきました。 Topへ
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